プロジェクトマネジメントの国際標準として広く認知されているPMBOK(ピンボック)。2021年に発行された第7版では、従来の第6版までとは大きく異なるアプローチが採用され、プロジェクトマネジメントの考え方そのものが刷新されました。
本記事では、PMBOK第7版の全体像をわかりやすく解説します。第6版との違いや変更点、知識エリアの対応関係、そして実務での活用方法まで、体系的に理解できる内容になっています。
プロジェクトマネージャーとしてスキルアップを図るためにPMBOKを学んでいる方、PMP資格の取得を目指している方は、ぜひ最後までご覧いただきPMBOKについての理解を深めてください。
PMBOKとは? プロジェクトマネジメントの標準ガイドを解説
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、アメリカのPMI(Project Management Institute)が発行するプロジェクトマネジメントの知識体系をまとめたガイドブックです。
世界中のプロジェクトマネジメント実務から得られた知見やベストプラクティスが集約されていて、業界や国を超えて活用できる標準的な指針として位置づけられています。プロジェクトマネジメントに必要なプロセスが定義されているため、プロジェクトマネジメントの世界標準となっています。
PMBOKガイドは書籍として販売されていて、PMIの会員になればHPからダウンロードして入手することも可能です。
PMBOKの基礎知識については、こちらの記事で詳細に解説していますので、あわせてご参照ください。
PMBOKが示す「プロジェクトの成功」とは
PMBOKでは、プロジェクトの成功を単にスケジュールやコストを守ることだけで測りません。第7版では特に「ステークホルダーに価値を提供できたかどうか」を重要な評価軸として位置づけています。
第6版までのプロジェクトのゴールが「QCD(Quality・Cost・Delivery)」の達成であったのに対し、第7版では「価値の提供」が重視されるようになりました。具体的には、以下のような観点で成功を判断します。
- プロジェクトの目的や目標が達成されたか
- ステークホルダーの期待に応えられたか
- プロジェクトチームが効果的に機能したか
- 組織やビジネスに意図した価値や便益をもたらしたか
- プロジェクトから得られた学びが組織に蓄積されたか
従来のQCDだけでなく、より包括的で長期的な視点から成果を評価する考え方が、第7版では強調されています。プロジェクトの成功とは単なる完了ではなく、組織とステークホルダーにとっての真の価値創出を意味しています。
PMBOK第7版の入手先一覧
PMBOK第7版は、PMIの公式サイトから入手できます。日本語版についても、PMI日本支部を通じて提供されています。主な入手方法は以下の通りです。
PMBOK第7版の入手先
- PMI会員:PMI公式サイトから無料でPDF版をダウンロード可能
- 非会員:PMI公式サイトから有償で購入(PDF版・印刷版)
- 日本語版:PMI日本支部または指定書店で購入可能
PMP資格試験の受験を検討している方は、PMBOKの理解を深めるための補助教材や解説書も多数出版されています。自身の学習スタイルにあわせて活用すると、より効果的な試験対策になるでしょう。
PMP資格との関係と学習方法
PMP(Project Management Professional)は、PMIが認定するプロジェクトマネジメントの国際資格です。PMBOKガイドがベースの一つになっている試験で、PMPは国際的にも非常に価値の高い資格です。
第7版の発行に伴い、PMP試験の内容も更新されました。「プロセス」重視から「原則(Principles)」と「パフォーマンス領域」を重視する形式へと変化していて、より実践的なシナリオベースの問題が増えています。
合格率は公表されていないため正確な数値は不明ですが、一部の教育機関の推計では60〜70%程度と言われることもあります。合格ラインは正解率60%台と言われていて、2024年12月時点の日本国内のPMP資格保有者の数は4万人以上です。
PMP資格の詳細や効果的な学習方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
PMBOKは多くのプロジェクトの失敗や教訓から築き上げられたプロジェクト管理の知識体系です。これにより、どのようなプロジェクトでも同じ考え方で取り組むことができます。
私自身はもともと現場経験が先で、先輩のやり方を参考にしてプロジェクト管理を実施していました。PMBOKを勉強したのはずいぶん後からでした。
実務経験と勉強、どちらが先が正解ということはありませんが、プロジェクト管理を仕事とするならば、必ず習得した方がよいと思います。
PMBOK第7版の概要|第6版までとの違い
PMBOK第7版は、2021年8月に発行され、プロジェクトマネジメントの考え方そのものを再定義する大きな転換点となりました。第6版までの「プロセス重視」のアプローチから、「原則とパフォーマンス領域」を軸とした価値創出重視のアプローチへと刷新されています。
分量が800ページ弱から400ページ弱へ減りましたが、このことだけでも大きな変化があったことがわかるでしょう。この変更は単なるマイナーアップデートではなく、プロジェクトマネジメントの実践方法に対する根本的な考え方の変化を示しています。
PMBOK第7版が発行された背景
第7版が発行された背景には、プロジェクトを取り巻く環境の急速な変化があります。アジャイル開発の普及、リモートワークの常態化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速など、従来の計画駆動型アプローチだけでは対応しきれない状況が増えてきました。
プロジェクトマネジメントを取り巻く環境が進化・変化しています。そのため、これまでのプロセスベースの指向でのガイドでは、全貌を示すための方法として維持することが難しいという理由から、大きな変更になったとみられます。
PMBOK第7版の全体構成と新要素
第7版の構成は、従来とは大きく異なります。主な構成要素は以下の通りです。
- 12の原則(Principles):プロジェクトマネジメントの基本的な考え方
- 8つのパフォーマンス領域:プロジェクトで実施すべき活動領域
- テーラリング:プロジェクトに合わせたアプローチのカスタマイズ方法
- モデル、方法論、成果物:実践で使えるツールや手法の紹介
第6版までの「49のプロセス」や「10の知識エリア」は、第7版の本編からは削除されています。ただし、プロセスアプローチを必要とする実務者向けに「プロセス群実務ガイド」という別のガイドで、その内容を確認することができます。
12の原則(Principles)をわかりやすく紹介
PMBOKガイド第7版では、プロセスベースから「原理・原則」ベースの記載へと変更になりました。
「5つのプロセス」が「12の原理・原則」に置き換わっていて、プロジェクトマネジメントの標準が大きく変化しています。原理・原則とは、プロジェクトに関係する人への振る舞いの指針(ガイド)のことで、規範ではないと記されています。
12の原理・原則は以下のような内容となっています。
PMBOKガイド第7版「12の原理・原則」
- スチュワードシップ(Stewardship):勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードである
- チーム(Team):共同的なプロジェクト・チーム環境を構築する
- ステークホルダー(Stakeholders):ステークホルダーと効果的に関わる
- 価値(Value):価値に焦点を当てる
- システム思考(Systems Thinking):システムの相互作用を認識し、評価し、対応する
- リーダーシップ(Leadership):リーダーシップを示す
- テーラリング(Tailoring):状況に基づいてテーラリングする
- 品質(Quality):プロセスと成果物に品質を組み込む
- 複雑さ(Complexity):複雑さに対処する
- リスク(Risk):リスク対応を最適化する
- 適応力と回復力(Adaptability and Resiliency):適応力と回復力を持つ
- 変革(Change):想定した将来の状態を達成するために変革できるようにする
これらの原則は、業界や手法を問わず普遍的に適用できる考え方として位置づけられています。原則を理解し、実務で意識することで、より効果的なプロジェクトマネジメントが可能になるでしょう。
第7版で追加されたテーラリングの考え方
テーラリングとは、プロジェクトの特性や環境に合わせて、プロジェクトマネジメントのアプローチをカスタマイズすることを指します。
第7版では、新たにテーラリング専用の章が設けられました。これも第6版から大きく変わった点の一つです。PMBOKガイド第7版では、テーラリングを次のように定義しています(抄訳)。
“テーラリングとは、プロジェクトマネジメントのアプローチ、ガバナンス、プロセスが、特定の環境および目前のタスクに、より適合するように、それらを慎重に適応させることである”
つまり、PMBOKに書かれていることにすべて対応するということではなく、各プロジェクトに応じて必要な対応をピックアップして行っていくことが大切だということになります。プロジェクトの規模、複雑さ、リスク、組織文化、ステークホルダーの要求などを考慮し、最適な手法やプロセスを選択・調整することが求められます。
第7版では、とりわけ「テーラリングの重要性」が強調されています。これまでのプロジェクト管理手法をそのまま杓子定規に行うのではなく、それぞれのプロジェクトに合わせて柔軟に必要な対応をしていくことが大事である、という強いメッセージだと考えます。
PMBOKが取り扱ってきたプロジェクト管理手法はウォーターフォール開発を前提としたシステム開発向けのものが多く、アジャイル開発ではオーバーヘッドになってしまうものも少なくありません。
そういった意味で、必要に応じてテーラリングを実施することの重要性を強調したのだと思います。
PMBOK第6版との違い・変更点を徹底比較
PMBOK第7版と第6版の違いは、単なる内容の更新ではなく、プロジェクトマネジメントに対する哲学的なアプローチの転換となっています。
第6版までは「ウォーターフォール型」や「アジャイル型」といったシステム開発手法に対するプロジェクト管理の具体的なプロセスを重視した構成になっていました。しかし、第7版ではプロジェクトに関わる人たちが、どのような姿勢でプロジェクトに臨むかという原則的なものの定義へと変更されています。
PMBOK第6版と第7版の主な違い
PMBOK第6版と第7版の比較表
| 項目 | 第6版 | 第7版 |
|---|---|---|
| 基本アプローチ | プロセス重視 | 原則・パフォーマンス領域重視 |
| 主要構成要素 | 5つのプロセス群、10の知識エリア | 12の原則、8つのパフォーマンス領域 |
| プロセス数 | 49のプロセス | 本編には記載なし(プロセス群実務ガイドで提供) |
| 焦点 | 「何をするか(What)」ハウツー | 「なぜ・どのように(Why・How)」バイブル |
| プロジェクトのゴール | QCDの達成 | 価値の提供 |
| 適用範囲 | 主に予測型プロジェクト | あらゆる開発アプローチ(予測型、アジャイル、ハイブリッド) |
第6版は「このプロセスを実行すべき」という規範的な記述が中心でしたが、第7版は「この原則に基づいて判断すべき」という指針的な記述へと変化しています。
「5つのプロセス群」との関係を解説
第6版で中心的な役割を果たしていた5つのプロセス群(立ち上げ、計画、実行、監視・コントロール、終結)は、第7版の本編からは姿を消しました。しかし、これらのプロセス群の考え方自体が不要になったわけではありません。
第7版では、8つのパフォーマンス領域という新しい枠組みでプロジェクト活動が整理されています。従来のプロセス群の要素は、これらのパフォーマンス領域の中に統合・再構成されています。
5つのプロセス群は、プロジェクトをフェーズでとらえ、管理していくために変わらず重要な考え方と言えます。PMBOK第6版は十分参考になり、これからPMBOKを勉強される方は、第7版だけを勉強すると理念は理解できても具体的なハウツーについては習得できません。
5つのプロセス群について詳しくは、こちらの記事で解説しています。
「10の知識エリア」はどう変わった?
第6版の10の知識エリア(統合、スコープ、スケジュール、コスト、品質、資源、コミュニケーション、リスク、調達、ステークホルダー)も、第7版では明示的には存在しません。
ただし、これらの知識領域で扱っていた内容は消失したわけではなく、8つのパフォーマンス領域に再編成されています。以下は対応関係の一例です。
10の知識エリアと8つのパフォーマンス領域の対応関係
- ステークホルダー → ステークホルダーのパフォーマンス領域
- スコープ → プロジェクト作業のパフォーマンス領域
- スケジュール・コスト → デリバリーのパフォーマンス領域
- リスク・課題 → 不確かさのパフォーマンス領域
- 品質 → デリバリー、プロジェクト作業のパフォーマンス領域
- 資源 → チーム、プロジェクト作業のパフォーマンス領域
- コミュニケーション → チーム、ステークホルダーのパフォーマンス領域
- 調達 → プロジェクト作業のパフォーマンス領域
各パフォーマンス領域は原理・原則に基づいて作業を行うとされていて、ほかのパフォーマンス領域と相互に依存しています。
また、パフォーマンス領域には決まった重み付けや順序はなく、各パフォーマンス領域の具体的な活動は組織、プロジェクト、成果物、プロジェクト・チーム、ステークホルダー、およびそのほかの要素の状況によって決まるとされています。
10の知識エリアの詳細は、こちらの記事をご参照ください。
統合マネジメントの位置づけは?
第6版で最も重要な知識エリアの一つとされていた統合マネジメントは、第7版では独立した領域としては存在しません。しかし、統合的な視点の重要性は変わらず、むしろ第7版全体の思想として組み込まれています。
統合マネジメントとは、「プロジェクト全体を一つにまとめてうまく進めるための活動」です。PMBOKでは、10の知識エリアの中で中核的存在とされています。個別最適ではなく、全体最適の視点でプロジェクトを牽引すること。それがPMに求められる最大の役割です。
第7版では、特に12の原則の一つである「システム思考」において、プロジェクトを独立した要素の集まりではなく、相互に関連する全体システムとして捉える考え方が強調されています。また、8つのパフォーマンス領域は互いに独立しているのではなく、相互に影響し合う関係にあることが明記されています。
つまり、第7版では統合マネジメントという特定の領域を設けるのではなく、すべてのパフォーマンス領域と原則を統合的に実践することが前提となっています。
統合マネジメントについて詳しくは、こちらの記事で解説しています。
第6版はプロジェクトを進めるための「ハウツー」が記載されていたのに対し、第7版はプロジェクトを行うにあたっての心構えをまとめた「バイブル」であると言えるかもしれません。
これはこれで大事なことですが、現場としてはハウツーが求められがちです。今回は第7版についての説明ですが、実は2025年11月にPMBOK第8版が公開されました。
第8版では、まさにバイブルとハウツーが合わさった内容となっています。こちらについては、改めて別の投稿で解説していきたいと思います。
第7版と第6版の両方を理解してプロジェクトマネジメント力を高めよう
PMBOK第7版は、プロジェクトマネジメントの考え方を根本から見直し、より柔軟で実践的なガイドへと進化しました。第6版の「プロセス重視」から、第7版の「原則・パフォーマンス領域重視」への転換は、現代の多様なプロジェクト環境に適応するための大きな変化と言えるでしょう。
ただし、第6版で体系化された49のプロセスや10の知識エリアは今も重要です。理念を示す第7版と、手順を体系化した第6版の両方を理解することで、状況に応じた柔軟な判断ができるようになります。
学んだ知識を現場で活かすためには、体系的なトレーニングを通じて実践力を身につけることが大切です。タカハマプロジェクトでは、プロジェクトマネジメントのスキルを高めるトレーニングメニューをご用意しています。下記ボタンより、ぜひご確認ください。
監修者紹介
高濱 幸喜(たかはま ゆきよし)
タカハマプロジェクト株式会社 代表取締役/PMP®資格保有者
20年以上にわたり、IT・通信・金融・製薬業・製造業・建設業など多様な業界でプロジェクトマネージャーとして活躍。PMBOKに基づくプロジェクトマネジメント手法を現場で実践し、数百件を超えるプロジェクトを成功に導いてきた実績を持つ。現在は研修やセミナーを通じて、次世代のプロジェクトマネージャー育成に注力。プロマネ道場では記事監修を担当し、読者に信頼性の高い情報を届けている。
タカハマプロジェクトでは、プロジェクトマネジメントについて学べるトレーニングコースを、「ビギナー向け」「PM経験者向け」にそれぞれご用意しております。プロジェクトマネージャーとしての成長を望む方は、下記のボタンよりお気軽にお問合せください。
