
プロジェクトマネジメントの世界標準として広く活用されている「PMBOKガイド」。最新の第7版で大きな変更が加えられ、第6版までに掲載されていた「10の知識エリア」が「8つのパフォーマンス領域」に変わったといった変更点は、当メディア「プロマネ道場」ですでに紹介しました。
最新版での掲載はなくなった10の知識エリアですが、プロジェクト管理において重要な考え方であることに変わりはありません。
この記事では、PMBOKガイド第6版までに掲載されていた10の知識エリアについて詳しく解説します。記事の監修は、PMP資格を所有しプロジェクトマネージャー(PM)として数々のプロジェクトを成功に導いてきたタカハマプロジェクト代表の高濱幸喜さんです。同じく第6版までに掲載されていた「5つのプロセス」とともに、10の知識エリア、第7版との違いを紹介します。
PMBOKとは? プロマネにとってのバイブル「PMBOKガイド」をおさらい
PMBOKガイドとは、Project Management Body of Knowledgeの頭文字を略したもので、“プロジェクトマネジメントの知識体系”をまとめたガイドライン(参考文献)です。PMBOKは「ピンボック」と読みます。
PMBOKガイドは、アメリカの非営利団体PMI(Project Management Institute)が、プロジェクトマネジメントの普及拡大を目的として作ったものです。プロジェクトの管理を行うために必要な管理の種類の定義、各管理で有効なツールや技法が紹介されており、今ではプロジェクトマネジメントの世界標準となっています。
プロマネにとってのバイブルとも言えるガイドとなっておりますので、プロジェクトマネージャーとしてのキャリアプランを描いているという方は、ぜひPMBOKガイドを学んでみてください。
PMBOKガイドの最新は第7版
PMBOKガイドは、プロジェクト管理の時代の変化に対応するべく約4年間隔で改定されていて、最新版は2021年に発行された第7版になります。
第7版と第6版の違いですが、第6版までは「ウォーターフォール型」や「アジャイル型」といったシステム開発手法に対するプロジェクト管理の具体的なツールや手法を重視した構成になっていました。しかし、第7版ではプロジェクトに関わる人たちが、どのような姿勢でプロジェクトに臨むかという“原則的な心構えを定義”する内容に変わりました。
先にお伝えしたとおり、本記事のテーマであるPMBOKガイド第6版に掲載されていた「10の知識エリア」は、第7版では「8つのパフォーマンス領域」に変更されています。
PMBOKには認定資格があるの?
PMBOKガイドの内容がベースとなっている資格に、PMP(Project Management Professional)があります。実施するのはPMBOKガイドを発行しているPMIで、資格を取得することができれば、日本だけでなく国際的にプロジェクトマネジメントの専門知識を有していることが認められる非常に価値の高い資格です。
PMPの合格率は公表されていないため正確な数値はわかりませんが、60%ほどではないかと言われています。合格ラインは正解率60%台と言われており、PMI会員費を含めて約550ドル〜という受験費用の高さを見ても気軽に挑戦できる資格ではないため、取得難易度の高い資格と言えるでしょう。

プロジェクトマネジメントの資格はいろいろありますが、やはりPMPがいちばん名の通った資格だと思います。ただ知識だけを詰め込めばよいというわけではなく、
・受験の条件に実務経験があること
・資格を取得した後にも実務経験や勉強をし続ける必要があること
が求められます。そのためPMPを持っていることは「今現在」プロジェクトマネージャーとしての知見を兼ね備えている証明ともなるのです。
PMBOK「10の知識エリア」とは?
「10の知識エリア」とは、プロジェクトマネジメントを実施する際に求められる知識を、10のエリア(領域)に分割して定義したものです。
10の知識エリアは、最新の第7版での掲載がなくなったからといって、学ぶ価値がなくなったわけでは全くありません。プロジェクトの目的達成に向けて、マネジメントするための具体的な手法や知識がまとめられているため、プロジェクト管理においては変わらず重要な知識と言えるでしょう。
PMBOKにおける10の知識エリアは、次の通りです。
PMBOK「10の知識エリア」
- ステークホルダーマネジメント
- スケジュールマネジメント
- コストマネジメント
- スコープマネジメント
- 品質マネジメント
- リスクマネジメント
- コミュニケーションマネジメント
- 資源マネジメント
- 調達マネジメント
- 統合マネジメント
各知識エリアを簡単に解説します。
ステークホルダーマネジメント
ステークホルダーマネジメントは、プロジェクトに関わる利害関係者(ステークホルダー)を管理することです。大まかにお伝えすると、プロジェクトに大きく影響を与える人たちが協力してくれるようにコミュニケーション方針を立てて実行していくというものです。
スケジュールマネジメント
スケジュールマネジメントは、プロジェクト完了に必要な作業を網羅したスケジュール表をもとに進捗をチェックしていく活動です。他にも進捗のチェックに加え、遅延が発生したときにどう挽回するのかを確認したり、追加の要望が発生したときに管理する作業項目を追加し、スケジュール表全体の整合を取るといったような活動も行います。
コストマネジメント
コストマネジメントとは、プロジェクトに必要な予算の設定、定めた予算内に収めるために期間中使用するコストを管理する活動です。具体的には、プロジェクトコストの見積もりや予算の設定、プロジェクト開始後には予算超過を防ぐために作業者の稼働を行ったりします。コストは多くの企業・組織が気にするポイントであり、シビアでもあります。ですのでコストマネジメントはたいへん重要な活動となります。
スコープマネジメント
スコープマネジメントは、プロジェクトで決められた作業範囲、成果物を管理する活動です。スコープとは「範囲」という意味で、プロジェクト期間中にお客様から出てきた要望がスコープの中に含まれているかどうかを洗い出します。プロジェクトの範囲を管理することがスコープマネジメントです。
品質マネジメント
品質マネジメントは、プロジェクトの成果物(完成品)に対する要求品質が満たされるような取り組みをしているかどうかを管理する活動です。お客様から要求される品質を確保するための方針や計画を立て、計画に沿って品質保証のための活動(例えばテストや教育など)を実行します。さらに、要求される品質基準を満たしているか測定、監視などを行います。もう一点、プロジェクトそのものの品質に対する管理を行います。
リスクマネジメント
リスクマネジメントは、プロジェクトを進めていく過程で影響を及ぼす可能性のあるリスクを想定・分析し、対応策を計画・実施する活動です。可能な限りの対処を実行することでリスクによる影響を小さくすることができます。プロジェクト実行中、管理する事項で「課題」というものがあります。課題とリスクは同じように扱われることがありますが、別物です。リスクと課題の違いについては別の記事で詳しく紹介します。
コミュニケーションマネジメント
コミュニケーションマネジメントは、プロジェクトを成功に導くためにステークホルダーとの円滑なコミュニケーション方法や手段を計画し、実行する活動です。ステークホルダーマネジメント計画などをもとにしてコミュニケーションの方法などを決めます。例えばメインのコミュニケーション手段を何にするか(電話、メール、チャット、Web会議など)、定例会議の設定、ファイル共有方法などを管理します。
資源マネジメント
資源マネジメントは、プロジェクトを円滑に進めるために必要な人的・物的資源(リソース)を適切に管理する活動です。プロジェクトの成功に向けて、必要なリソースを確保し、リソースを適切に配置・活用することで、作業の効率化やチームの生産性向上を図ります。また、リソースの過不足を防ぎ、適切な環境を整えることで、プロジェクトの円滑な遂行につなげていきます。
調達マネジメント
調達マネジメントは、プロジェクトに必要な物資やサービスを調達し、管理することです。契約の計画、供給者の選定、契約の締結・管理を通じて品質やコスト、納期を最適化し、プロジェクトの成功につなげます。調達を管理し、リスクを最小限に抑えながら円滑に進めることが調達マネジメントです。
統合マネジメント
統合マネジメントは、プロジェクト全体を統括し、各プロセスを調整し最適化する活動です。少しわかりにくいかもしれませんが、ここまでに紹介してきたスコープやコスト、スケジュールなどのマネジメントはお互い密接に関連しています。ですので、各管理を独立して実施するというのではなく、各要素を統合的に管理し、プロジェクト全体の整合性を保ちながら変更や課題に対応していく一連の活動を「統合マネジメント」と呼んでいます。
10のエリアはプロジェクトを進めていくにあたってどれも必要な管理領域になります。
ここでは概要の紹介となりますが、とりわけ重要なスケジュール管理、コスト管理やステークホルダー管理などについては、初心者向けトレーニングでもう少し細かく説明します。
経験者向けトレーニングでは、私が過去の経験による管理のコツや勘所を説明しますので、自分の引き出しを増やしたい方はご検討頂ければと思います。
PMBOK「5つのプロセス」も等しく重要
10の知識エリアとともにPMBOK第6版までに記載されていた「5つのプロセス」は、「12の原理・原則」に置き換わりました。最新版での記載はなくなったものの、プロジェクトをフェーズでとらえ、管理していくために“5つのプロセスは変わらず重要な考え方”で、10の知識エリアとともに変わらず重要なものです。
5つのプロセスは、プロジェクトの開始から終了までの流れを「5つのプロセスに分類して定義」し、プロジェクトマネジメントに役立たせるものです。
PMBOK「5つのプロセス」
- 立ち上げプロセス
- 計画プロセス
- 実行プロセス
- 監視・コントロールプロセス
- 終結プロセス
5つのプロセスについては、別記事で詳しく解説します。
10の知識エリアは、第7版では「8つのパフォーマンス領域」に
最新の第7版で10の知識エリアから置き換わった「8つのパフォーマンス領域」。パフォーマンス領域は、プロジェクトの成果を効果的に提供するために欠かせない活動を8つのグループにまとめたもので、8つのパフォーマンス領域の構成は以下のようになっています。
PMBOK「8つのパフォーマンス領域」
- ステークホルダー
- チーム
- 開発アプローチとライフサイクル
- 計画
- プロジェクト作業
- デリバリー
- 測定
- 不確かさ
パフォーマンス領域には順序はなく、各パフォーマンス領域の具体的な活動は、組織、プロジェクト、成果物、プロジェクト・チーム、ステークホルダー、およびそのほかの要素の状況によって決まるとされています。
PMBOK第7版は、第6版とは全く別物の内容に変わり、プロジェクトに対する心構えがまとめられた、いわゆる「経典」のような存在になったと感じます。
一方、第6版は具体的にプロジェクトを実行する際のツールや技法が記載された「ハウツー本」であったと思います。どちらも大事な内容が記載されていますので、両方勉強することをお勧めします。
10の知識エリアをプロジェクト管理の現場で活用しよう!
この記事では、PMBOKガイド第6版までに掲載されていた10の知識エリアについて詳しく解説しました。最新版では8つのパフォーマンス領域に置き換わったものの、プロジェクトマネジメントにおいては変わらず重要で必須の知識です。10の知識エリアもしっかり理解し、プロジェクトマネジメントの現場でご活用ください。
本文内でもご紹介しましたが、タカハマプロジェクトでは、「ビギナー向け」「PM経験者向け」にトレーニングコースをご用意しております。プロジェクトマネジメントの基本を知りたい方、プロジェクトマネージャーとしてスキルアップしたいという方は、下記のボタンよりお気軽にお問合せください。