プロジェクト管理「統合マネジメント」を解説! プロPMも迷う領域を正しく理解しよう

プロジェクト管理「統合マネジメント」を解説! プロPMも迷う領域を正しく理解しよう

経験豊富なプロジェクトマネージャー(PM)であっても、理解に苦労するのが「統合マネジメント」です。「統合ってどういうこと?」、「具体的になにをすればいいのか?」と感じているPMも多いのではないでしょうか。

本記事では、PMP資格を所有しプロのプロマネとして数々のプロジェクトを成功に導いてきたタカハマプロジェクト代表の高濱幸喜さん監修のもと、PMBOKに基づいたプロジェクト統合マネジメントの全体像と、現場で活かすポイントをわかりやすく解説します。

統合マネジメントとは

統合マネジメントが定義されているPMBOKでは、以下のように説明されています。

“プロジェクトマネジメント・プロセス群内の各種プロセスとプロジェクトマネジメント活動の特定、定義、結合、統一、調整などを行うために必要なプロセスおよび活動からなる。”

PMBOKを勉強し、改めて上の文章を読むと『確かにそうだな』、とわかるでしょう。ですが、まだピンとこないという方も少なくないかもしれません。

統合マネジメントをできるだけ簡単に言えば、
「プロジェクト全体を一つにまとめてうまく進めるための活動」
になります。

統合マネジメントの目的と基本概念

統合マネジメントの目的は、バラバラになりがちな計画・実行・調整をつなぎ、組織やチームを共通のゴールへと導くことにあります。

統合マネジメントは、プロジェクトで決めたいろいろな管理方針に矛盾が出ないよう、各種マネジメントの決めごとの調整を行います。個別の管理領域だけに集中すると最適化されておらず、いびつな部分が残ったりしがちなので、全体を俯瞰して各種管理同士の調整を行います。

統合マネジメントが難解な理由

統合マネジメントがプロマネを悩ませる理由は、その中身がかなり抽象度の高い表現で説明されていることと、関与範囲の広さにあると言えるかもしれません。

他の知識エリアが「何を・どう管理するか」に焦点を当てているのに対し、統合マネジメントは「どのように全体を調和させるか」が重要になります。ほかの知識エリアがスケジュールやコストといった個が管理対象なのに対して、統合マネジメントは全体が管理対象になります。

具体的なツールや手法が見えにくく、PM経験が浅いほど「何から手を付ければ良いか分からない」と感じやすいのです。

統合マネジメントの重要性とPMBOKにおける位置づけ

PMBOKでは、統合マネジメントは10の知識エリアの中で中核的存在とされています。その理由は明確で、ほかのすべての知識エリアと連動して一貫した方針に束ねていくことが統合マネジメントであるためです。

統合マネジメントと他の知識エリアの関係性

個別最適ではなく、全体最適の視点でプロジェクトを牽引すること。それがPMに求められる最大の役割であり、統合マネジメントの本質です。

PMBOK「10の知識エリア」をおさらい

PMBOK「10の知識エリア」は、プロジェクトマネジメントを実施する際に求められる知識を、10のエリア(領域)に分割して定義したものです。最新のPMBOK第7版では掲載がなくなりましたが、プロジェクト管理においては変わらず重要な知識と言えます。

PMBOKにおける10の知識エリアと、それぞれ何を管理しているかを簡単に書けば、次の通りです。

管理エリア何を管理してる?
スコープ管理プロジェクト対象範囲
スケジュール管理スケジュール
コスト管理プロジェクトの予算
品質管理出来栄え
リソース管理人員やモノ
コミュニケーション管理コミュニケーションの取り方、会議体
リスク管理プロジェクトに影響しうるリスク
調達管理発注契約、ライセンスなど
ステークホルダー管理ステークホルダー
プロジェクト統合管理9つの管理すべて(各管理同士の関連を調整)
高濱 幸喜

統合マネジメントは、「オーケストラの指揮者」の活動がイメージに近いのではないかと思います。

個々の楽器の演奏を調整し、全体のハーモニーを作り上げていく行動は、まさに統合マネジメントに通づるものがあると考えます。

統合マネジメントは5つの全プロセスと関わっている

統合マネジメントは、PMBOKが定義する「5つのプロセス」すべてに深く関与します。5つのプロセスは、下記の通りです。

PMBOK「5つのプロセス」

  1. 立ち上げプロセス
  2. 計画プロセス
  3. 実行プロセス
  4. 監視・コントロールプロセス
  5. 終結プロセス

5つのプロセスには、各プロセスにおいてPMが果たすべき役割があり、それぞれに対応する統合マネジメントのプロセスが存在します。この先は、5つのプロセスに基づいて、統合マネジメントの具体的な活動をわかりやすく紹介していきます。

プロジェクト統合マネジメントと各プロセスの関わりをわかりやすく解説

ここからは、統合マネジメントと5つのプロセスとの関係について解説していきます。各フェーズでPMが果たすべき役割を理解することで、統合マネジメントの実践がより明確になるでしょう。

統合マネジメントと5つのプロセスの関係をわかりやすく理解するためには、PMBOKが定義する、各プロセスとの関係性を知ることが重要です。プロジェクト憲章の作成から計画書の策定、実行管理、ナレッジ活用、監視・変更統制に至るまで、統合マネジメントは5つのプロセスの各フェーズに一貫して関与します。

各活動は、バラバラになりがちな業務を一つの方針にまとめ、プロジェクトを全体最適へと導く鍵となります。フェーズ毎の統合マネジメントを詳しくみていきましょう。

①【立ち上げ】プロジェクト憲章の作成

統合マネジメントにおける最初のプロセスは、プロジェクト憲章の作成です。プロジェクト憲章は、プロジェクトを正式に立ち上げる文書であり、PMの権限、プロジェクトの目的、主なステークホルダーなどを明記します。

プロジェクト憲章があることで、プロジェクトの開始における社内外の共通認識が生まれ、スムーズなスタートを切ることができます。

②【計画】プロジェクトマネジメント計画書の作成

①で作成したプロジェクト憲章等を基に、より具体的な計画を策定するのがプロジェクトマネジメント計画書の作成です。スコープ、スケジュール、コストなど全知識エリアを横断する形で方針を整理し計画することから、統合マネジメントのプロセスとして整理されています。

計画書がしっかり作成されていないと、後工程での管理が行き当たりばったりになりやすいため、ここは統合マネジメントの重要なポイントと言えるでしょう。

③【実行】プロジェクト作業の指揮・マネジメント

計画が完成した後は、プロジェクト作業の指揮・マネジメントが統合マネジメントの中心的役割となります。これは、PMが計画に基づいてチームを動かし、各種作業の実行を進めていく活動です。

進捗状況の把握や課題解決だけでなく、各知識エリアと連携しながら全体を調和させるのがポイントとなります。

④【実行】プロジェクト知識のマネジメント

実行フェーズでの統合マネジメントの特徴の一つに挙げられるのが「知識のマネジメント」です。過去のプロジェクト経験やナレッジを活かし、プロジェクトの質を高める活動のことです。

個人に埋もれがちな経験を組織の知識として共有・蓄積し、将来のプロジェクトに役立てること。これも統合マネジメントを成功させる鍵となります。

⑤【監視・コントロール】プロジェクト作業の監視・コントロールと変更統制

統合マネジメントにおいて欠かせないのが、監視・コントロールプロセスです。計画と実績を比較し、必要に応じて修正を加えることで、プロジェクト全体の整合性を保ちます。

ここではまさに9つの管理エリアで監視されている情報を見ながら計画通りに進んでいるか、変更が必要かなどの判断をしていくことになります。

さらに、変更要求が発生した際には、影響を精査し、承認や却下の判断を行う「変更管理」もPMの重要な責務です。これを怠ると、プロジェクトは収拾がつかなくなりがちです。

⑥【終結】プロジェクトやフェーズの終結

終結フェーズでは、統合マネジメントのみプロセスが定義されています。

ここではプロセスを終結するための活動を行います。例えば以下のような活動です。

  • 成果物の納品
  • 最終報告
  • 運用部門への引継ぎ
  • プロジェクトの教訓のシェア

プロジェクトを終結させる事は、「プロジェクト全体に関係する活動」であることから統合マネジメントに含まれていると言えます。

私は最初、「統合マネジメント」という言葉を目にした時、「統合」という言葉になかなかなじめませんでした。統合マネジメントは「個別の管理エリアからあぶれたものが押し込められている」というような感想を持っていました(笑)

実行や監視・コントロールの部分はまさしく全体の管理をフル活用して行う活動ですが、プロジェクト憲章の作成、プロジェクト計画書の作成、プロジェクトの終結が無理やり整理された感を感じていました。
しかし、よくよく考えれば3つとも全て「別々の管理を一つにまとめて前に進める活動」なのです。そういうことか、と腹落ちするのには正直時間がかかりましたね。

統合マネジメントはすぐには理解が難しいかもしれませんが、PMにとってメインの活動と言ってもよい部分ですので、自分の中でイメージを作って腹落ちさせましょう。

目的とプロセスを意識して統合マネジメントに取り組もう

統合マネジメントは、プロジェクト全体を「一つのストーリー」としてまとめ上げる非常に重要な領域です。個別のマネジメントという点を統合マネジメントによって線にする。統合マネジメントを理解し、適切に実践することこそ、PMとして一段上を目指すための大きな鍵と言えるでしょう。

タカハマプロジェクトでは、統合マネジメントをはじめ、プロジェクトマネジメントのスキル向上を目指す研修や支援サービスを提供しています。PMとしてさらに成長したい方、統合マネジメントの実務に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。