プロジェクトが失敗に陥る大きな要因の一つが「リスク管理の不十分さ」です。計画段階で想定される課題を洗い出し、適切な対応を準備しておくことは、PMの重要な役割といえます。
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)では、体系的に整理されたリスクマネジメントの手順が定義されており、PMP保有者をはじめ多くのプロマネが実務で活用しています。
本記事では、PMBOKに基づくリスクマネジメントの基本から、第6版と第7版の違い、リスク管理表の作り方までを解説します。プロジェクトを成功へ導くために欠かせない知識を整理し、実際のプロジェクト管理での活用方法をわかりやすく紹介します。
PMBOKにおけるリスクマネジメントの基本
PMBOKにおけるリスクマネジメントは、プロジェクトに潜む不確実性を管理する体系的なプロセスです。潜在的な脅威や機会を明確化し、影響度を分析し、事前に対応策を準備することで、成功確率を高めます。
リスクマネジメントはプロジェクト管理に必須の知識であり、特に大規模案件ではリスクマネジメントの成熟度が成果を左右すると言えます。
プロジェクト管理におけるリスクマネジメントの定義
リスクマネジメントとは、プロジェクト遂行に影響を及ぼす不確実性を体系的に特定・評価・対応する活動を指します。例えば納期遅延や品質問題といったリスクに加え、新技術導入による競争優位獲得といったポジティブな機会も含まれます。
企業全体で取り組むERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)と比較すると、プロジェクトマネジメントにおけるリスク管理は、期間や範囲が限定された案件単位での具体的対策にフォーカスしている点が特徴です。
リスクマネジメントの使い方
リスクマネジメントは、プロジェクトの計画初期から一貫して取り入れることが重要です。
まずリスクを洗い出し、影響度や発生確率を評価。その後、対応策を策定して管理表に記録します。進行中は定期的にリスクレビューを行い、状況に応じて対策を見直すことが求められます。
このプロセスを徹底することで、突発的な問題への対応力が高まり、安定した成果を得ることができます。
ネガティブリスクとポジティブリスクの両面を管理する重要性
リスクマネジメントというと失敗の回避に注目しがちですが、成功の機会を管理することも重要です。
納期遅延やコスト超過といったネガティブリスクを抑える一方、新市場開拓や技術的ブレークスルーといったポジティブリスクを積極的に取り込むことが、プロジェクトの付加価値を高めます。
両面を意識することで、リスクマネジメントは守りだけでなく攻めの戦略にもなります。
リスク管理は知識としては知っていても実際にやったことはない、という方が意外とおられるのではないでしょうか。
とはいえ、「こういうことがおきたらまずいから先に手を打っておくか」というレベルで予防線を張ったり保険をかけるという行為は大なり小なりされたことはあるのではないかと思います。それがまさに「リスクに対する対応」なのです。
リスクは、プロジェクトの規模が大きくなるにつれ、発生したときのインパクトが大きくなります。なので、大規模プロジェクトでは必ずリスク管理が実施されなければなりません。
本文にもあるように、PMBOKではポジティブリスクについても管理していくことが語られています。確かにプロジェクト成功の確度を高めるためには望ましい事ではありますが、私はポジティブなリスクを管理した案件を経験したことがありません。
まずはネガティブなリスクをきっちり管理するところから実施していくことが個人的には大事だと考えます。
PMBOK第7版と第6版のリスクマネジメントの違い
PMBOK第6版では、リスクマネジメントを6つのプロセスとして体系的に整理しています。一方、第7版ではプロセスの羅列から原則ベースに移行し、柔軟性と実務適用性が重視されました。
第7版では価値提供と適応性に重点を置き、リスクマネジメントもプロジェクト環境に応じた実践が強調されています。
第7版におけるリスクマネジメントの捉え方
第7版では、リスクマネジメントを「不確実性を組織的に扱い、プロジェクト価値を最大化する活動」と捉えています。従来のようにプロセスを厳格に守るのではなく、成果志向とアジャイル的な適応を前提としたアプローチが推奨されています。プロジェクト特性に合わせた柔軟な適用が重要視されています。
第6版でのリスクマネジメント6プロセス
第6版は6つのプロセスを中心に構成されています。
- 【計画の策定】リスクマネジメント計画を定め、役割や分析方法を明確化します。初期段階での準備が成功の基盤となります。
- 【リスク特定】ブレインストーミングやチェックリストを活用し、潜在的なリスクを幅広く抽出します。
- 【定性的リスク分析】発生確率と影響度を定性的に評価し、対応の優先度を決定します。
- 【定量的リスク分析】シナリオ分析やモンテカルロ法を使い、影響を数値化するプロセスです。
- 【リスク対応計画の策定】回避、移転、軽減、受容といった対応戦略を選び、具体的な行動を決定します。
- 【リスクの監視】進行中に新たなリスクを特定し、既存リスクの状況をモニタリングします。
リスクの洗い出し方は過去の類似プロジェクトで洗い出したリスクを参照したり、識者を集めてブレーンストーミングを実施したりと、その企業やプロジェクトの特質によって様々です。
いずれにしても、そのプロジェクトの背景にある特徴を踏まえてリスクを洗い出すことが重要となります。
リスク回避に使える「リスク管理表」の作り方
リスク管理表は、リスクの特定から対応までを一元的に管理するためのツールです。
リスク登録簿(Risk Register)の基本構造
リスク登録簿は、各リスクの内容、発生確率、影響度、責任者、対応策を一覧化した表です。リスクの可視化により、関係者全員が状況を把握でき、迅速な意思決定が可能になります。
また、対応策の実施状況を追跡する役割も果たします。プロジェクトの進行中は定期的に更新することで、動的に変化するリスク環境に適応できます。
リスク管理表の作成ステップ
リスク管理表は5つのステップで構築します。
- 【リスク洗い出し】PMBOKのガイドに沿ってブレストや過去事例分析を行い、抜け漏れなくリスクを特定します。
- 【発生確率、影響度の確認】各リスクについて発生可能性と影響度を定義し、リスク評価マトリクスに反映させます。
- 【優先順位付け】重大度に基づきリスクをランク付けし、リソースを集中すべきリスクを明確化します。
- 【対応策の設定】回避、軽減、移転、受容といった戦略を適用し、具体的なアクションプランを策定します。
- 【モニタリング方法の明記】レビュー会議や定例報告を通じて、リスク状況を継続的に監視・更新します。
実務での運用ポイント
リスク管理表は作成して終わりではなく、継続的な運用が肝心です。
定例会議で更新状況を確認し、対応策の有効性を評価することが成功の鍵になります。特に外部環境が変化しやすいプロジェクトでは、リスクレビューの頻度を高めると効果的です。
また、関係者全員が閲覧できる共有環境を整備することで、リスク意識が組織全体に浸透します。
リスク管理は本文にもあるように、プロジェクト期間中その脅威がなくなるか顕在化するまで監視し続けることが重要です。リスクが顕在化したものが問題です。解決しないとプロジェクトの予定に影響を及ぼす問題が課題となります。
もちろんすべての課題がリスクから発生するわけではありませんが、リスクの段階で早めに対処することで、課題にならなくてすむケースもあるわけです。
小規模なプロジェクトでリスク管理をやりすぎると、逆に管理のオーバーヘッドがかかりすぎてしまう可能性があるので、そのプロジェクトの重要性や規模を勘案して実施しましょう。
PMBOKリスクマネジメントを実務に活かすポイント
リスクマネジメントは、プロジェクトの成功を大きく左右する要素です。PMBOKの体系に基づき、計画策定からリスク洗い出し、分析、対応策の実行、モニタリングまでを一貫して実践することで、不確実性を制御できます。
また、第6版のプロセス重視と第7版の原則重視という両方のアプローチを理解し、柔軟に使い分けることも大切です。さらに、リスク管理表を活用することで、リスクを可視化し、チーム全体の意識を高めることができます。
タカハマプロジェクトでは、実務に直結するプロジェクトマネジメント研修を提供しています。体系的に学び、現場で活かすスキルを磨きたい方は、ぜひ研修メニューをご覧ください。お問い合わせもお気軽にどうぞ。
監修者紹介
高濱 幸喜(たかはま ゆきよし)
タカハマプロジェクト株式会社 代表取締役/PMP®資格保有者
20年以上にわたり、IT・通信・金融・製薬業・製造業・建設業など多様な業界でプロジェクトマネージャーとして活躍。PMBOKに基づくプロジェクトマネジメント手法を現場で実践し、数百件を超えるプロジェクトを成功に導いてきた実績を持つ。現在は研修やセミナーを通じて、次世代のプロジェクトマネージャー育成に注力。プロマネ道場では記事監修を担当し、読者に信頼性の高い情報を届けている。
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