
プロジェクトを進めるうえで欠かせないツール、それが全体の進行を見渡せる「マスタースケジュール」です。マスタースケジュールは、プロジェクトの全体像を可視化し、関係者間で共通認識を持つための重要なツールです。
「プロマネが進捗を管理するためのスケジュール管理表は作っているけれど、それだと細かすぎてスケジュールの全体感をステークホルダーに説明しにくい」ので、必要な工程をざっくりと作成するのがマスタースケジュールになります。
本記事では、現役のプロPMとして活躍中のタカハマプロジェクト代表の高濱幸喜さん監修のもと、PMBOKの知識を交えながらマスタースケジュールの解説から、マスタースケジュールの作り方やおさえるべきポイント、WBSやマイルストーンとの違いを詳しく解説します。
マスタースケジュール(マスケ)とは?
マスタースケジュールとは、プロジェクト全体を俯瞰するための上位レベルのスケジュールです。
個別タスクや工程単位ではなく、プロジェクト全体をいくつかの大きなフェーズやマイルストーンに分けて示し、それぞれの開始日・終了日、主要な成果物の完成時期などをまとめます。
プロジェクトのスケジュール管理において重要な役割を果たす主要なドキュメント、それがマスタースケジュールです。
プロジェクト管理におけるマスタースケジュールの位置付け
PMBOKでは、マスタースケジュールは「ハイレベルスケジュール(High-Level Schedule)」や「サマリースケジュール(Summary Schedule)」とも呼ばれ、プロジェクトマネジメント計画書の一部として位置づけられます。
詳細なスケジュールと違い、プロジェクトの主要なフェーズやマイルストーン、成果物の締め切りなどを大まかに示したものです。ステークホルダーへの報告や意思決定に活用する「全体の見取り図」というと理解しやすいかもしれません。
マスタスケジュールが必要な3つの理由
もしかすると、「詳細スケジュールがあれば内容を満たしているので十分では?」と思われた方、思われている方もいるかもしれません。しかし、マスタースケジュールには以下のような重要な役割があります。
①プロジェクトの全体像を関係者で共有できる
プロジェクトは複数の部門・メンバーが関わるため、それぞれのタスクだけを追っていると全体像が見えづらくなります。
マスタースケジュールを用いることで、誰が見ても「プロジェクトは今どこにいるのか」「次に何が控えているのか」が一目でわかるようになります。
②リスクの早期発見につながる
マスタースケジュールでマイルストーンごとの進捗状況を確認していくことにより、
、プロジェクト全体の進み具合が把握でき、遅延が発生した場合にどこへ影響が波及するかをすばやく把握できます。
結果、遅延のリスクとして早期に検討し、最悪のケースを回避する助けとなります。
③ステークホルダーへの説明がスムーズになる
プロジェクトの進捗や変更を説明する際、詳細スケジュールでは情報量が多すぎて伝わりづらい場面があります。
マスタースケジュールは全体の流れをシンプルに示せるため、経営層やクライアントへの説明に非常に効果的です。

本来プロジェクトでスケジュール進捗を管理する資料は1つに集約したいところですが、プロマネが作成するスケジュール管理表は本文にもあるとおり、細かいタスクまで分解しています。
経営層やステークホルダーには細かいタスクの進捗は必要ありませんし、全体の中で今順調なのか、マイルストーンは予定通り達成しているのかを報告できればよい場合が多いです。
結果、多くのプロジェクトではマスタースケジュールとスケジュール管理表の両方を用意し、更新していく必要があります。
マスタスケジュールの書き方
ここからは、マスタースケジュールの作成手順を紹介します。
お伝えしたようにマスタースケジュールは、詳細なスケジュールではなく関係者間での確認をしやすくしてくれる全体の見取り図という役割を担っています。基本的には詳細なスケジュール管理表を作成する方法と手順は同じです。
よって、基本構成や作成ステップを正しくおさえれば、作り方はそれほど難しくないのではないでしょうか。
マスタスケジュールの基本構成
マスタースケジュールの基本構成は、スケジュール管理表の項目のうち、以下が必要です。
- プロジェクト開始日と終了日
- プロジェクトフェーズ
- 作業工程
- マイルストーン
- それぞれの各工程の開始日・終了日
- 主要な成果物の完成時期
マスタスケジュールの作成ステップ
ステップ0. プロジェクトスコープの明確化
マスタースケジュール作成を始める前段として、プロジェクトスコープをはっきりさせておくことが必要です。プロジェクトで「やること・やらないこと」の範囲を定義します。スコープが曖昧なままでは、どの作業をスケジュールに落とし込むかが決まらず、計画を後で何度も修正しなければならない原因になります。
また、関係者間でスコープを共有しておくことは、認識のズレを防ぐ上でも重要です。マスタースケジュールは全体を俯瞰するツールですから、まずスコープを文書化し共通理解を持つことが、成功への第一歩となります。
ステップ1. WBS(作業分解構成図)の作成
まずはWBS(作業分解構成図)の作成です。WBSとは、プロジェクトを完了させるために、必要なタスクを階層的に整理しまとめたもののことです。
作業を細分化することで、漏れやダブりを防ぎ、後のスケジュール作成が格段にやりやすくなります。たとえば「開発」という大きな作業も、「基本設計」「詳細設計」「コーディング」などに分解し、さらに細かい単位まで落とし込みます。
WBSを作ることで、全体の工数やリソースの見積もり精度が向上し、マスタースケジュールに説得力が出ます。
通常、作業の細分化は最上位の作業から多くても4層くらいまでで納めるようにします。マスタースケジュールの場合は最上位層か2層目くらいまで作業工程を使用します。
ステップ2. スケジュールの割り当て
WBSが完成したら、各作業にスケジュールを割り当てます。ここで大事なのは、作業の所要期間だけでなく、前後関係やリソースの制約も考慮することです。
「この作業が終わらないと次に進めない」という依存関係を整理しながら、開始日と終了日を決めていきます。スケジュールを組む際には、ラグタイムが発生する可能性を視野に入れ、無理のない期間設定を心掛けましょう。
マスタースケジュールはあくまで全体の流れを示すため、細かすぎないレベル感がポイントと言えます。粒度を高くしないことで計画変更にも柔軟に対応できます。
マスタースケジュールでは、ステップ1でも説明した通り、第2層の工程を使用します。
ステップ3. マイルストーンの設定
最後に行うのがマイルストーンの設定です。マイルストーンとは、プロジェクトを実行する際の「中間目標地点」のことです。
例えば「フェーズとフェーズの境目」、「次のフェーズに進んでよいかどうかの了承をいただくための会議」、「成果物納品の可否判定会議」、「ステコミ」、「プロジェクトオーナーへのお披露目」などが該当します。マイルストーンを設定することで、進捗を測る基準ができ、関係者への報告内容もイメージしやすいものになります。
また、マイルストーンの作成はリスクの早期発見にも役立ちます。遅れが出た場合に全体へ波及する影響を素早く把握できるため、対策を立てやすくなるのです。
そのためマイルストーンは、マスタースケジュールに必ず盛り込むべき要素です。
マスタースケジュール作成時の注意点
単にマスタースケジュールを作るだけでは、プロジェクト管理で活用できるツールになりません。マスタースケジュール作成時は、以下の3つのポイントを意識することが大切です。
ポイント1. 粒度を細かくしすぎない
マスタースケジュールは全体を俯瞰することが目的のため、粒度を細かくしすぎないことがポイントになります。なので、作成ステップでも説明しましたが、WBSで分解した作業の中で最上位層か2層目くらいまででまとめるのが良いでしょう。
ポイント2. 更新しやすい形式で作成する
プロジェクトは、進行中のフェーズでもスケジュールが変わります。マスタースケジュールも常に最新化し、進捗や変更を反映させる必要があるため、更新しやすい形式で作成することもポイントです。
ポイント3. 関係者に分かりやすい内容であること
経営層やクライアントなど、専門知識のない人が見ても理解できるレベルで作成することもポイントです。図や色分けを活用し、関係者に取って分かりやすい内容に仕上げましょう。
今回の記事ではマスタースケジュールを正攻法で作成する方法を紹介していますが、時間がない場合には過去の経験や他プロジェクトのスケジュールを参考にマスタースケジュールを作成するケースもあります(むしろその方が多いかもしれません)。
内容が満たされていればそれでも問題ありませんし、後続で詳細スケジュールを作成するときのインプットにもなります。
WBSとマスタースケジュールの違い
WBSとマスタースケジュールは、どちらもプロジェクト計画に欠かせない重要なツールですが、役割が異なります。
WBSは、プロジェクトのスコープを細かい作業単位に分解し、抜け漏れなく整理するための構造図です。一方、マスタースケジュールは、そのWBSで洗い出された作業群の中から上位層の作業を時間軸に沿って全体的に配置したものです。
つまり、WBSは「何をやるか」を示し、マスタスケジュールは「何をいつやるか」を示す役割を持ちます。違いを理解することで、両者をより効果的に使い分けられるでしょう。
WBSをわかりやすく解説
先にもお伝えしたように、WBSはプロジェクトを完了させるために、必要なタスクを階層的に整理しまとめたもののことです。
大きな工程を段階的に詳細なタスクへ分解することで、どんな作業が必要か、作業の抜けや重複がないかを可視化できます。例えば「開発」という大きな作業も、「設計」「コーディング」「テスト」と細分化し、それぞれの作業をさらに細かく分けていきます。
WBSを作成することで、スケジュール作成や工数見積もりの精度が上がり、マスタスケジュール作成の土台にもなります。
今プロジェクトでのあらゆる管理のベースとなるのがWBSです。プロマネであればWBSの構造、作り方は必須で把握しておく必要があります。
ただしWBSだけでは進捗管理を行うことはできず、各作業の期間を表すガントチャートを組み合わせたスケジュール管理表によって初めて可能となります。
マスタースケジュールとマイルストーンの違い
マスタースケジュールとマイルストーンは、どちらもプロジェクト管理の要素ですが、意味は異なります。
マスタースケジュールは、プロジェクト全体のフェーズを時系列で整理し、全体の流れや各工程の期間を把握するための計画表です。一方で、マイルストーンは、そのスケジュール上に設定する「重要な節目」を指します。
前項でもあげましたが、マイルストーンの例では「成果物納品の可否判定会議」、「ステコミ」、「プロジェクトオーナーへのお披露目」などがあります。つまり、マスタースケジュールが全体の「地図」なら、マイルストーンはその中に配置された「チェックポイント」のような役割を果たします。
マイルストーンをわかりやすく解説
マイルストーンとは、プロジェクトを実行する際の「中間目標地点」のことです。先述の通り、チェックポイントと捉えていただくと、理解しやすいでしょう。
マイルストーンには、「要件定義の完了」や「テスト開始」など、プロジェクトの区切りとなる出来事を設定します。マイルストーンがあることで、進捗確認がしやすくなり、関係者への報告も簡単にできます。
また、遅れが出た場合に全体スケジュールへの影響をすばやく把握できるため、リスク対策にも役立ちます。マスタースケジュールを作る際は、このマイルストーンを設定することが非常に重要です。
プロジェクトのマイルストーンを何にするかについては、ステークホルダーの立場によって観点が変わってきます。
マスタースケジュールで報告を行う相手の立場で必要なマイルストーンを設定することが大事です。
マスタースケジュールを活用しプロジェクトを成功に導こう
プロジェクトの成否を大きく左右するのが、全体を俯瞰し、関係者と共通認識を持つためのマスタースケジュールです。
プロマネが進捗詳細を管理するスケジュール管理表とは別にスケジュール管理する資料が増えてしまい煩雑ですが、それぞれの目的が異なります。経営層やステークホルダーにざっくりと状況を伝えるためには必須のツールになります。プロジェクトの成功にはステークホルダーとの情報共有が大切な鍵となるため、違いをよく理解し、運用していきましょう。
タカハマプロジェクトでは、プロジェクトマネジメント支援やプロジェクトマネジメントについて学べるトレーニングコースを用意しています。マスタースケジュールの作り方に不安がある方や、さらに実践的に学びたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。